昔、ある紳士が言った。
感情は、暴力を生む装置だと。
若い彼は、それを否定した。
だが今、
暴走する感情の波を前にして、
その言葉を、わずかに思い出していた。
どれだけ仕組みを作っても、
それは、いずれ塗り替えられる。
歴史が、そう証明している。
ならば――
塗り替えるのは、音だ。
彼女は、笑っていた。
上も、下も、分からない。
左右さえ、意味を持たない。
それでも、このスリルは、
どんな速度でも得られなかったものだ。
「みんな、行くよ!」
低音は、いつも下にある。
視点が消えても、
ベースの位置だけは、揺るがない。
彼女は、迷わない。
音の中で、自分の場所を知っている。
リズムが走る。
正確で、無機質なはずの刻み。
彼の作る一定の間隔が、
ばらけた音を、引き戻していく。
そこに、基準が生まれる。
音は、組み替えられていく。
無数のパターン。
分解され、再構築される旋律。
見えなくてもいい。
音は、触れられる。
彼のピアノが街を包んでいく。
「まったく、天才ばかりだな」
散らばる音を拾い上げる。
ぶつかり合う個性を、ひとつに束ねる。
必要な音を、必要な場所へ。
ギターが、輪郭を引き戻す。
「へへっ、最高だねぇ」
声が、乗る。
まとまり始めた音は、
意志を持った塊へと変わる。
歌が、それを街へと拡げる。
視点など、いらない。
ここには、音がある。
彼は、静かに笑った。
街は一度、
巨大な渦に飲み込まれたように見えた。
だが――
音が、塗り替えていく。
色が戻る。
輪郭が戻る。
そして、
どこか懐かしい歌が、
微かに響いていた。







































スピードを信じている。
迷う前に、アクセルを踏むタイプだ。
早いマシンと、強い音が好き。
立ち止まるくらいなら、視点を失ったまま走り続けることを選ぶ。
このバンドの進行方向は、彼女の声が決めている。
ほとんど喋らない。
言葉よりも、低い音のほうが正確だから。
普段は漫画を読んでいる。
ページをめくるリズムと、ベースラインは、どこか似ている。
感情は、音の奥に沈んでいる。
だいたい何でもできる。
だから、どこにも縛られない。
兄貴分として慕われているが、本人はあまり気にしていない。
気が向いたときに現れて、いちばん自由な音を置いていく。
ピアノは、いちばん古い言語。
それ以外は、あとから覚えた。
ゲームとアニメと、現実の区別が、少し曖昧。
正確で、静かな音。
彼のキーボードは、この世界を少しだけ柔らかくする。
この中で、いちばん長く生きている。
冗談は古いが、リズムは新しい。
余計なことを言いながら、誰よりも正確に時間を刻む。
バンドが壊れずに走れるのは、彼が、時間を裏切らないからだ。
長い間、ファンクタウンにいた。
表舞台には出てこない。
このメンバーを集めた理由は、今も語られていない。
街が正常だった頃も、歪み始めた頃も、彼はそこにいたらしい。
「ロスト・パースペクティブ」は、視点を失ったまま、それでも前に進もうとする感覚をテーマにした楽曲です。正しさや意味が簡単に更新されていく現代の中で、自分がどこに立っているのか分からなくなる瞬間は、誰にでも訪れるものだと思います。
この曲では、そうした不確かさや違和感を、無理に整理したり、結論づけたりすることはしていません。むしろ、混乱したまま、揺れたままでも音が鳴り続けること自体に、一つの意味があるのではないかと考えました。
ファンクやサイケデリックの要素を軸にしながら、断片的な言葉やイメージを重ねることで、聴く人それぞれが、自分なりの視点を重ねられる余白を残しています。
この楽曲が、何かを理解するための答えではなく、立ち止まったり、考え直したりするための「きっかけ」として、そっと寄り添う存在になれば幸いです。
— maurice blue
Producer / Bluepiece Lab.
Single