サーバータワーが、揺れている。
低い振動が、床から伝わってくる。
均一だったはずのノイズが、わずかに濁っている。
ライブ。
こんな状況で?
意味は、分からない。
けれど、他に方法がないことも分かる。
メンバーは、静かに集まってくる。
サーバータワーの内部、簡易スタジオ。
彼女はベースを構える。
指を置く。
いつも通りの位置。
いつも通りの圧。
合わない。
チューニングは狂っていない。
ドラムが刻む、正確なはずの時間。
それでも、音が重ならない。
違う――
これはズレではない。
音そのものが、変形している。
波打ち、伸びては、沈む。
ただの誤差ではない。
音が、意思を持って、何かを選んでいる。
既存の仕組みを塗り潰すのか、
あるいは、すべてを飲み込むのか。
視界が、わずかに滲む。
――まずい。
「お待たせ!」
軽い声が、空気を切った。
見慣れたシルエット。
「ありゃ、これはすごいことになってる?」
遅れていた二人が、そこにいた。
「さあ――ここからがライブだ」
次の瞬間。
サーバータワーの壁面が、開いた。
内側から光が溢れる。
都市全域へと接続される、巨大なステージ。
音は、街へ放たれる。
だが――
うねりは、止まらない。
むしろ、増幅していく。
音が音を侵食し、輪郭が崩れていく。
リズムはほどけ、旋律は歪み、すべてが混ざり合う。
視界が、消える。
どこまでが音で、どこからが自分なのか分からない。
そのまま、
視点が――失われた。







































スピードを信じている。
迷う前に、アクセルを踏むタイプだ。
早いマシンと、強い音が好き。
立ち止まるくらいなら、視点を失ったまま走り続けることを選ぶ。
このバンドの進行方向は、彼女の声が決めている。
ほとんど喋らない。
言葉よりも、低い音のほうが正確だから。
普段は漫画を読んでいる。
ページをめくるリズムと、ベースラインは、どこか似ている。
感情は、音の奥に沈んでいる。
だいたい何でもできる。
だから、どこにも縛られない。
兄貴分として慕われているが、本人はあまり気にしていない。
気が向いたときに現れて、いちばん自由な音を置いていく。
ピアノは、いちばん古い言語。
それ以外は、あとから覚えた。
ゲームとアニメと、現実の区別が、少し曖昧。
正確で、静かな音。
彼のキーボードは、この世界を少しだけ柔らかくする。
この中で、いちばん長く生きている。
冗談は古いが、リズムは新しい。
余計なことを言いながら、誰よりも正確に時間を刻む。
バンドが壊れずに走れるのは、彼が、時間を裏切らないからだ。
長い間、ファンクタウンにいた。
表舞台には出てこない。
このメンバーを集めた理由は、今も語られていない。
街が正常だった頃も、歪み始めた頃も、彼はそこにいたらしい。
— maurice blue
Producer / Bluepiece Lab.
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